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本を、旅を、世の中をどのように見るのか


by qzr02421
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その謎の解き方がゆるいのだ。そのゆるい感じがとてもよい。

『香菜里屋を知っていますか』北森鴻著だ。香菜里屋はカナリヤと読む。香菜里屋という居酒屋とその主人の話だ。この店に持ち込まれる謎を、その主人が解明するという、ホームズかマープルのような話だ。

その謎の解き方がゆるいのだ。そのゆるい感じがとてもよい。また、再三出てくる、料理の能書きが面白いし、思わず食べたくなるのだ。次のような記述だ。「弱火で煮込まれた大根にはテールスープのコクがたっぷりしみ込み、テールスープには大根の野性味と甘みが溶け出している。互いが旨みを循環させたスープを別取りして蟹のほぐし身をたっぷりくわえ、葛を引いてとろみをつける。熱々の大根にこれをかけまわして、薬味の芽ねぎを加えてある」というのだ。

美味しいという顔をすると、店主は「よい材料がはいりましから」「素材を生かしている、ただそれだけのこと」というセリフをのたまうのだ。「肴をぞうぞ」と差し出された小皿にはなにか切り身が盛り付けてある。「赤貝に下処理を加えて、酒盗に漬け込みました」「鰹では癖がありすぎるので、鮪の酒盗にしてみましたが、いかがですか」というのだ。

なぞもそれなりの面白いのだが、この料理の記述だけでも十分楽しむことができる。『桜宵』『蛍坂』という作品を先に読んだほうがよいと思う。なぜなら香菜里屋が閉店するからだ。閉店前に、開店当時の謎と料理を読んだ方がよいだろう。また『狐罠』『狐闇』の主人公も『香菜里屋を知っていますか』には登場する。楽しくまた悲しい作品だった。
by qzr02421 | 2008-05-17 22:17 |